夢のはなし 1

新宿の自宅近くの道を曲がると向こうに水平線が見えて、踏み切りがあった。
夏雲が空に見えて気持ちが高揚するのがわかる。
「なんだ、こんなところにあったのか・・・」と嬉しくなって急いで踏み切りを抜けると、日に焼けた砂が足の裏に熱く、あわてて海にかけ込んだ。

水はぬるい。
向こうに岸が見える。
川だったか、と残念に思ったとたんに水が臭く濁ってしまった。
私は気味が悪くなって大慌てで泳ぎ切ってしまう。

向こう岸に着くと、何か懐かしく華やいだ気持ちになって自分の日焼けした肩などを撫でまわしている。

少し不良じみた年上らしい青年がブロック塀の端に座っていた。
私は中学生ぐらいだった。青年は二つか三つ年上だろうか。日焼けした痩せた胸に腕が長かった。
私と目を合わせないで遠くを見ながら静かに笑って話している。
シャツの胸元には細いネックレスのようなアクセサリーが見えた。
私には決して似合わない、真似しようとも思わないその服装や容貌がひどく羨ましかった。
ジャンマレエに少し似た彼の横顔。
胸の中でスケッチするように見ていると、みるみる色が無くなって、空が曇っていった。
秋になったのだとわかった。


そのあとは、小雨が降る映像が断片的につづく。


私は縦縞の薄っぺらなパジャマの下を履いて、上は肌着一枚、裸足でマンションの裏玄関の前に立っている。
眠ったまま歩いて来てしまったか?
慄然としてあたりを見回した。

薄暗いこんなに寒い日になんという格好で出てきたのだろう。
ひどく恥ずかしくなって部屋に戻ろうとする。

朝早いのだ。
住人とすれ違い挨拶をするが自分の様子に明らかに不審の目を向けられる。
マンションのエントランスに入るが、帰る自宅の部屋番号が思い出せなくて廊下をうろうろするばかり。
管理人に見つけられて家内が呼ばれるが、ろれつが回らず話すことも出来なくなっていた。

夢。

起きてわずかの間だが、自宅の住所が思い出せなかった。
ひどく動悸がする。
最近では珍しくない。
自分がいくつで、今どこにいるのかすぐに分からない時もたまにある。
動悸がおさまると夜明け前の部屋で、いくつも見たさっきの夢の事を思った。

人生の秋、という言葉が頭に浮かんだ。
生まれた頃から季節にあてはめれば、50歳は秋といったとこだろう。
収穫の無い秋。
期待は裏切られ、気付けば既に晩秋の風が吹いている。
このあとは寒い冬が始まるだろう。






















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